一般的にはおろそかにされている営業力、集客力。
農家といえば作物を生産するのが仕事。
そう思っている人がほとんどではないでしょうか。
たしかに生産は大切です。
でも販売も同じくらい大切だということはもっと知っておくべきではないでしょうか。
これはたとえ農協出荷であっても、業者との契約栽培であっても、です。
販売をしっかりと意識していると見える景色が変わります。
同じ農家なの?と思うくらい、いろんなものの見え方が変わってきます。
それは労働者から経営者になる、と言い換えてもいいかもしれません。
販売のキモになるのが営業であり集客です。
でも。
買ってくれる人を見つけて、どうやって売っていくのか。
必要なのはわかるけど、どうやって営業していいかわからない。
そんな農家も多いはずです。
スーツにネクタイ姿で、飛び込み営業をするのか。
チラシを配ればいいのか。
引き売りしてみたらいいのか。
テレビや新聞などのメディアを活用すればいいのか。
業者や店舗に直接アポイントをとればいいのか。
直売や朝市で直接販売して売り込めばいいのか。
漠然としていてよくわからないですよね。
今回は営業や集客について。
小さな農家がとるべき営業手法について、若干まどろっこしいと思いますが、小さな農家だからこそできる営業について順を追って説明していきます。
誰のための商品なのか
営業の出発点として、自分が売ろうとしている商品は誰のためのものなのかを明確にする必要があります。
これがぼやけていると、安くなければ売れない状態に陥りますし、大規模農業と同じ土俵に立つことになるため価格競争で疲弊してしまいます。
小さい農家は、小さいからこそ提供できる量に限りがあります。
多くの人に買ってもらわなくても、一部の熱狂的に支持してくれるファンがいてくれれば商売として成り立ちます。
だからこそ小さな農家は、コンセプトを明確にした商品を持ち、それを本当に欲しいと思っている人のところへ届ける必要があります。
これは大規模にやっている農家ではできない売り方です。
たくさん買ってもらおうと思ったら、大勢の人が振り向くような当たり障りのない商品にしなければならないですから。
このあたりのターゲット設定については、下記の記事に詳しく書いています。
お客様の顔が目に浮かぶくらい具体的にターゲットを絞りこむ方法
絞り込んだ相手に的確な情報を届ける
ターゲットを絞り込んだら、次はその人たちへ売り込みをする必要があります。
そのターゲットがいるところを探して、ピンポイントの情報を狙って届けるわけです。
広く万人受けする情報を、適当に流していても誰にも響きません。
これは自分のためにあるような商品だ!
と思わせるような、そんな売り込みが必要です。
たとえば。
薬局に風邪薬を買いに行ったときのことを想像してみてください。
いろんな風邪薬が並んでいますよね。
そんななかで、
頭痛、鼻水、せき、発熱に効果があります。
そのようななんでも効く薬が欲しいと思って選ぶでしょうか?
いまの自分の風邪の症状にあわせて、その症状を改善してくれる薬が欲しくありませんか?
もし風邪の症状のなかでも鼻水がとくにひどいのであれば、
鼻からくる風邪に効きます
という薬を選びたくなるはずです。
喉がとにかく痛いんだよね、という人であれば
喉によく効く風邪薬
と書かれている薬を選ぶはずです。
自分の症状にピンポイントで効くと書かれていたら、なんにでも効くような万能薬よりもそっちを買いますよね。
絞られていると効くような気がしませんか?
この話を農業に当てはめるとどうなるでしょうか。
たとえば無農薬で育てた野菜。
これを安全な野菜だと売るのは簡単です。
でも。
そんな売り方をしている農家は山ほどいますよね。
無農薬野菜というカテゴリーのなかで、安全アピールをしている農家がたくさんいるのに、同じように安全な野菜ですよ~と売り込んだところで消費者の心には響きません。
もし長く経験を積んだ先進農家がいれば、お客様はそちらに流れてしまいます。
ではここで。
安全は安全でも、安全性についてもっと詳しくアピールしたらどうでしょうか。
硝酸態窒素の含有量が低い。
無農薬栽培であることを詳しく情報公開している。
有機JAS認証を取得している。
放射能検査を受けて安全が確認できている。
圃場見学会を定期的に開いているから透明性が高い。
万能薬のようにただ安全だとアピールするのではなく、なにがどう安全なのか特効薬を提供するわけです。
このようにアピールすれば、放射能を気にする人に強く響くし、硝酸態窒素を気にする人にも買ってもらいやすくなります。
とにかく安心が欲しい人にとっては、生産者情報が詳しく分かることこそが求めているものだったりします。
特効薬の提供は、こういうのが欲しいという希望をダイレクトに叶えることができるんです。
絞り込んだ相手に的確な情報を届けることの重要性をご理解いただけたでしょうか。
複数のターゲティングで幅広く集客
小さな農家がとるべき営業方法の第一歩は
誰のためにある商品なのか、
誰のどんな悩みを解決できるのか、
を考えて顧客を絞り込むことです。
そして。
商品開発(栽培方法、品目・品種選び等)ではっきりと絞りこんで、それを作り込んでいくことが重要になります。
いいものをつくりたい。
それだけでは、熱狂的に支持してくれるファンは増えていかない。
お客様の心には響かないことを知っておいてください。
ではここで。
対象を絞りこんでいくと購入する人が減るのではないか?
マニアックすぎる商品は、買ってくれる人がそもそも少ないのではないか?
と思われる方もいるでしょう。
でもそんな心配はいりません。
まず第一に、自分にぴったりだと感じる商品があれば買いたくなるものです。
それを欲しいと思っている人の目の前に差し出せば、高い確率で購入されるわけです。
だから、たとえ対象者が少なくなったとしても購入確率が上がるので、(絞り込み方にもよりますが)購入する人が減るとは一概に言えません。
そして。
対象を絞りこむのは、必ずしも商品そのものをマニアックにすることではありません。
これは勘違いされやすいのですが、ターゲットの絞り込みと商品のマニアック化は別物だと考えてください。
ターゲットを設定するというのは売り方の問題なんです。
同じ商品であっても切り口を変えてアプローチすれば、絞ったターゲットを複数持つことができて、トータルで多くの販売が見込めるということ。
つまり、商品はひとつでもいい。
いくつもある価値を、見せ方を変えて提供するだけのことです。
無農薬という価値をもった野菜があるとして。
1.無農薬だから安全。
2.美味しいから子供も食べる。
3.健康に育っているから栄養満点。
4.(直販で)顔が見えるから安心。
5.直販だから安い。
というように、購入者が無農薬野菜にどのような期待をしているかを考えて、それぞれの期待に切り口を変えてアピールしていく。
そうすると、安全を求めている人も買うし、美味しさを求めている人も買う。
健康を望む人も買うし、安心を手に入れたい人も買う。
トータルで多くの販売が見込めます。
これはスマートフォンを例に挙げるとわかりやすいです。
スマホの購入目的は人それぞれ違います。
安さ、操作性、デザイン、ブランド、機能・・・。
同じ機種であっても、人によって求めるものが違いますよね。
いろんな価値をアピールするからこそ、それぞれの価値に魅力を感じて買ってくれる人がいて、対象を絞り込んだのに購入数が増えるというわけです。
実際にはどのように営業するのか
では実際に、どう営業していけばいいのかを考えていきます。
さきほどの無農薬野菜を例にして。
たとえば、安全性を気にする女性に売っていくなら。
健康系、食品系、といったその手の雑誌に広告をのせるとか。
食の安全をテーマにした講座、講演でチラシを配らせてもらうとか。
子育てサークルとつながりを持って自身のことを知ってもらうとか。
食の安全を気にする人は出産にもこだわりを持つと考えて、自然分娩の産科医にチラシをおかせてもらうとか。
美味しさを売りにしていくなら、レストラン取引を通じて店内で宣伝してもらう。
直売などで試食してもらう。
料理教室とからめる。
食味コンテストなどに応募する。
安心を売っていくなら、積極的に顔出しで情報発信して生産者の信頼感をアピールする。
見学会や収穫体験を頻繁に開催する。
テレビ出演する、本を出版する(人はけっこう権威・知名度で信頼する)。
など。
ネクタイをしめてピンポン訪問するのが営業ではありません。
誰かれ構わずに声をかけて、そのうちの少数が振り向いてくれたらいいや、という営業はあまりにも効率が悪すぎます。
営業ばかりに時間をかけていられない農家にとって、不特定多数への呼びかけはやるべきではありませんし、そんな営業をしている余裕なんてない。
ターゲットがはっきりしているなら、その人たちがどこに集まっているのか、どういう媒体でアピールすれば目に留まるのか、絞ったうえで効果的な営業を心掛けるべきです。
少ない手持ちの武器で、最大限の効果が出る方法を考えましょう。
顧客の心に響くメッセージを届けよう
成熟した産業は多様化が進みます。
自動車は、速く遠く移動できればいいという時代から、乗り心地や積載量、デザインやブランドイメージなど、多様なニーズを満たしていく時代へと変化していきました。
どんな産業でも同じ。
多様なニーズに応えていく細やかなサービスが求められるようになっていくんです。
ここで。
「多様なニーズ」を真に受けて、たくさんの商品を用意する必要はありません。
それは小さな農家がとるべき戦略ではない。
商品を増やすのではなく、価値を増やす。
ということに気がついてほしいと思います。
実際に強い効能、効果があるかどうかはさほど重要ではありません。
つまり圧倒的な美味しさ、栄養価などは必要ないということ。
大事なことは、顧客の心に響くメッセージを届けられるかどうか。
商品コンセプトを明確にしているかどうか、です。
ここには、商品価値をもっと高めるように栽培に力を入れよう、などという話は一切出てきません。
売り方の問題だからです。
すでにあなたの商品には何かしらの価値があることに早く気がついてください。
今回のチェック
●誰のために商品なのかを明確にする
●絞り込んだ相手に的確な情報を届ける
●商品を増やすのではなく、価値を増やしてアピールする