実家が農家ですでに育てている品目があるときは、それを引き継いで同じように営農していくことが多いと思いますが、そうじゃなくて非農家出身だとか実家とは違ったことをやりたいときなどは、「何を作りたいのか」をまず最初に考えます。
米をつくりたい、野菜をつくりたい、果物をつくりたい。
野菜の中でもキャベツをつくりたい、トマトがいい、パクチーを育てたい。
どんどん商品となる作物を絞り込んでいって、●●農家になるという道を探っていきます。
これが一般的です。
もちろんそういう流れでもかまいませんが、本来なら最初に決めるべきは
何を作るのか
ではなく、
誰に売りたいのか
だということを知ってほしいと思います。
今回は”誰”にフォーカスを当てていきます。
栽培技術に目を奪われがちですが、顧客を絞り込むことは商売としてかなり重要ですのでぜひご一読をお願いします。
ターゲットの絞り込みは深く深く
栽培するべき品目が決まっているときでも、まったく何を育てようか決まっていないときでも、誰に売っていくのかは非常に大切な最初に決めるべき事項です。
商売の本質は「誰に何を売るか」ですから当然ですよね。
”誰”が決まれば商売の形が決まります。
つくるべき作物が決まり、必要な栽培面積が決まり、営業方法も決まります。
得られる収入や労働時間も人によって差はありますがおのずと決まってきます。
”誰”つまりターゲットを決めることは、事業の方向性を決める上で欠かせないものなんです。
では具体的にターゲットを絞り込んでいきましょう。
おおざっぱに言って、農家の顧客は4つに分かれます。
一般家庭・・・いわゆる消費者。ここが最終顧客になるため一般家庭を顧客にするということはイコールで直接販売(直販)を意味する。
飲食店・・・和食・フレンチなどのジャンル、個人店・チェーン店などの業態によって違うが、農産物は飲食店によって加工されて料理として提供される。
仲介・卸売業者・・・農協や市場なども含めた仲介を主とする業者。らでぃっしゅぼーや・オイシックスなどもここに入る。
小売店・・・いわゆるスーパー、八百屋などの販売業者。
これだけを見ても、どの顧客を相手にしたらどんな農業になるのかなんとなくわかりますよね。
一般家庭向けに売っていくのにキャベツだけを大量に栽培する農業は違いますよね?
農協に出荷していくのに、農協が求めていない珍しい野菜(たとえばコールラビ、フェンネル、アーティチョークのような西洋野菜)を持っていっても受け取ってもらえませんよね?
有機農産物や特別栽培農産物を求めているオイシックスと取引をしたいのに、農薬を使った一般的な農業をしていても相手にしてもらえません。
顧客にしていく相手、ターゲットによって求められるものが違うのは分かってもらえると思います。
じゃあターゲットを絞り込むときに
よし、オレは飲食店向けに作物を売っていこう!
僕は地元にスーパーと取引をしよう!
私は家庭向けに野菜を売っていきたいです。
と決めたらそれでおしまいでしょうか?
だめです。
ターゲットの絞り込みをここで終わらせてはいけません。
さらに深く絞り込んでいく必要があります。
一口に一般家庭と言っても、核家族世帯もあれば老夫婦2人暮らしもあり、若い人が一人暮らししている場合もあります。
スーパーの特売品ばかりを狙っている人もいれば、健康に気を遣って多少値が張ってもいいものを買おうとする人もいます。
一般家庭向けとターゲットを絞ってもまだまだ不十分で、もっとはっきりと顧客とするべき人の顔や性格、家族構成や趣味嗜好が想像できるくらいに絞っていくべきです。
この顧客を絞り込んでいく工程は、農業経営を考えるときに最も重要ですので、ここでは一般家庭というターゲットを例にして、 具体的にどのように絞り込んでいくかを詳しく見ていきます。
デモグラフィック変数を収集する
デモグラフィックというのは人口統計データのことですが、こんな言葉はべつに覚える必要はありません。
ようするに顧客となるターゲットのイメージを絞り込んでいきましょうという話です。
変数は7つあります。
年齢、性別、世帯規模、所得、職業、学歴、住所
すでに栽培したい品目が決まっているときは、それを買いそうな顧客層を考えてみてください。
まだ真っ白な状態でなにも決まっていなければ、自分がどんな顧客層に対して育てたものを売っていきたいのかを想像してみてください。
表のように仮にデモグラフィック変数を定義したとして、次にどのターゲットに決めたら自分に合っているか、売り上げが最大になるか、を考えていきます。
たとえば、有機農業では王道の少量多品目栽培でたくさんの種類の野菜を育てて、野菜詰め合わせセットという形での販売を考えていたら・・・。
ひとまず仮定1~3すべてにマッチしそうな感じです。
でも、有機野菜セットはスーパーで買えるような一般的な野菜に比べるとどうしても価格が高くなりがちなので、仮定2や仮定3のような世帯所得300万円くらいでは購入できる母数が少なくなってしまうかもしれませんし顧客単価が低くなってしまうかもしれません。
また、ホームページを作って通販していきたいとか、facebookなどのソーシャルメディアでクチコミ拡散を狙っているとか、インターネットを使った集客・営業をやっていこうと考えているなら・・・。
まだまだインターネットが完全に生活に浸透しきっていない仮定2の高齢者層を相手にするのはちょっと難しいことがわかります。
であれば、今回は小さな子供を抱える主婦をターゲットにするのがよさそうです。
このように、デモグラフィック変数を使うことで、商品を一番買ってくれそうな層をかなり絞っていくことができます。
もちろんさらに絞っていく場合もあります。
小さな子どものなかでも10歳以下の子供を育てていて、その子がアトピーなどの症状を持っているため食の安全にかなり気をつけている。
など。
ここまで絞り込めば、じゃあ自分が育てなければならないのは安全を第一に考えた栽培方法だろうとか、子どもが食べやすい野菜をたくさんお届けするために苦みよりも甘みがある種類の野菜(トマト、枝豆、トウモロコシなど)を選ぼうとか。
アトピー治療を行っている医院や、食に気を遣うお母さんが集まる自然分娩の助産院などに農園のチラシを置かせてもらおうとか。
明確な方向性が見えてきます。
サイコグラフィック変数を収集する
デモグラフィック変数を定義したら、次にサイコグラフィック変数を調べます。
サイコグラフィック変数とは心理学的変数のことで、具体的には
価値観
ライフスタイル
性格
好み
などの個人的嗜好を指します。
じつはさきほどのデモグラフィック変数のところで少し書いていたのですが、
食の安全に気を遣っている
というのはサイコグラフィックのなかの価値観に相当します。
サイコグラフィック変数が農業経営の方向性を大きく左右することはありませんが、自分の商品をアピールするとき、つまり面と向かって営業をかけたりホームページなどで商品の説明をしたりするときに
どういう言葉が響くのか?
という判断の精度を飛躍的に高めてくれます。
食の安全に気を遣っている主婦に「うちの野菜は安いですよ」と言っても響きません。
子どもが美味しく食べてくれる野菜を求めているのに「うちのトマトは昔ながらの酸味と青臭さがウリなんです」と言っても買ってくれません。
顧客とするべき人たちに、自分の商品をどのように見せるべきなのか。
それを明確にするためにサイコグラフィック変数があります。
サイコグラフィック変数を調べるには・・・。
知人や友人にそれらしい人がいれば、その人を知ることが近道になりますし、ターゲットにすべき人が読んでいそうな雑誌を調べるのもいい方法だと思います。
facebookなどのソーシャルメディアを眺めていると、趣味嗜好が見えてくることもあります。
とにかく、ターゲットになるべき人たちの価値観、ライフスタイル、性格、好みなどを探ってみてください。
いろんなものが見えてくるはずです。
ターゲットが決まるとすべての方向性が明確になる
デモグラフィック変数とサイコグラフィック変数のふたつを調べていくと、顧客となるべきターゲットがかなり絞り込まれてきます。
ここまでくると、農業経営のなかで決めなければいけないことがほとんどみえてくるようになるんです。
農業をスタートさせるときに決めるべきことはいくつかあって、そのなかでも大きなものが
品目、品種
栽培規模
営業方法(広告媒体)
これら3つです。
どんなものをどれくらいの面積で作り、どのように売っていくのか。
つまりはそういうことなんですが、これらの事項はターゲットの絞り込みによってかなり明確になっているんです。
さきほどの例でいくと、ターゲットは
小さな子供を抱える主婦(食の安全に気を遣っている)
でした。
その家庭に向けて、野菜セットをつくってインターネットで売っていく。
それが経営的にも売り上げを高めるのではないか、という判断を下しています。
であれば、品目・品種については小さな子どもが喜んで食べるような野菜、苦味が少なく甘みがある品目や品種を採用すればいいことが分かります。
営業方法については、食に気を遣うお母さんが集まる自然分娩の助産院などに農園のチラシを置かせてもらう、子育てサークルなどと繋がる、食に関する講演会などで出店・チラシ配布させてもらう、ホームページでは安全に気を付けた栽培へのこだわりを記述したり子どもが喜ぶ収穫体験を告知する、といった営業が考えられます。
栽培規模についてもある程度は決まってきます。
一般家庭向けに野菜セットを売っていく場合、その単価は2000~3000円程度になります。
1週間に何件に発送して、そのために必要な野菜の量はどれくらい、じゃあ1年間でどれくらいの作付け量が必要だから、トータルの栽培面積はこれくらいだ。
ということが見えてきます。
まあこれについては経験がないと分からないと思いますので、たとえば私が提供している多品目栽培計画表フィールドプランをご購入いただければ
顧客件数と栽培面積との相関
ははっきりと数字で出ているのであまり気にする必要はありません。
まあ野菜セットは全体像が見えにくい営農形態のひとつだと思いますが、とにかく言えることは
ターゲットが明確になれば
品目、品種
栽培規模
営業方法(広告媒体)
もおのずと見えてくる、ということです。
お客様の顔が見えていますか?
農業の現場では生産だけが強くクローズアップされますし、生産が重要なのは事実です。
でも、生産と同じくらいなのが販売であり、その生産と販売ふたつを支える
経営
も大切なものです。
その経営のなかでもマーケティングは生産・販売に大きく関わる要素で、マーケティングを簡単に言い表すと
セールスを楽にするための活動
となります。
マーケティングが出来ているとセールスつまり販売が楽になりますし、その結果として農家は生産に集中できるようになります。
そして、マーケティングのスタート視点と言えるのが今回書いてきた
ターゲットの絞り込み
です。
ターゲット選定はすべての始まりであり、農業経営すべてにかかわる重要な決定事項であることを知って欲しいと思います。
あなたはお客様の顔が見えていますか?
今回のチェック●とにかく誰に売りたいのかを明確にする
●デモグラフィック変数とサイコグラフィック変数のふたつを決めていく

