今回は、「常識を疑うPDCAの実例10パターン」という記事のなかの
育苗ポットの必要性
について、さらに詳しく解説していきたいと思います。
常識を疑う
トマト、ナス、ピーマンなどの果菜類は、ポットと呼ばれる柔らかいプラスチックの鉢で育てられることが一般的です。
一般的というか、もう常識のレベルで当たり前になってます。
当然ですが私自身も、研修しているときにはポット育苗を教わっていますし、そうするのが当たり前だと思っていました。
だから就農してからも何の疑いも持たずに、それこそ10年近くもポット育苗を続けてきました。
でも。
あるときふと、突拍子もないアイデアが頭をよぎったんです。
セルトレイじゃだめなの?
果菜類は育苗期間が長いから、土の量が多いポットで育苗をするんです。
どう考えたってセルトレイじゃ通常の苗の大きさにならないのは明白です。
わかってるんですが、なにか引っかかる。
・・・
通常の苗の大きさ?
苗の大きさって、何を基準に決めているの?
通常よりも小さい苗で畑に出すことはタブーなの?
そのサイズで定植しなければ育たない理由でもあるの?
ふつうよりも小さなサイズの苗でも、ちゃんと収穫できるならそれでいいんじゃないのか。
セルトレイで小苗を作っていく。
そうすれば育苗のスペースは小さくてすむし、購入している培土は少なくてすむ。
育苗期間も短くなる。
畑での管理期間がすこし難しくなるのかもしれない、そこだけは注意してみていかなければ。
セルトレイ育苗の計画を立てて、実際にやってみて、よくなかった点を修正しながら、どんどん自分のものにしていく。
今では果菜類のセルトイレ育苗は私にとって当たり前のものになり、カボチャやキュウリも含めてポットで育苗する野菜はなくなりました。
疑いを持った、その小さな穴を、どんどん広げていって、ついに新しい道を見つける。
もしかしたら意外に知られている手法なのかもしれませんが、すくなくとも私にとってはポット育苗が常識でしたし、その常識を自分自身で打ち砕いたところに価値があるのだと思っています。
育苗の意味をしっかりと考える
私がセルトイレ育苗に辿りつくまでに考えたことのひとつが、
なぜ育苗をするのか
ということ。
トマト、ナス、ピーマンを、畑に直接タネを播くことは不可能じゃないのに、それをやっている農家がほとんどいないのはなぜか。
育苗するのにはちゃんとした理由があるんじゃないか。
まずはそこからスタートしました。
ということで、ここでも育苗について考えてみます。
なぜ育苗をするのかを考えるときに大切なことは、その目的はなにかということです。
どんな目的のために育苗をするのか、ということ。
これについておおざっぱに3つ挙げてみます。
1.その野菜本来の短い旬を活かすため
2.生育初期の虫害を回避するため、厳しい気候環境を避けるため
3.圃場の有効利用、回転率上昇のため
詳しくは書きませんがひとくちに育苗といっても、その目的は様々です。
春野菜を育苗するのと、夏野菜を育苗するのでは、その目的は違います。
夏野菜と秋冬野菜についても、育苗する目的は違うんです。
ではここで。
トマト、ナス、ピーマンの場合の目的はどれかといえば、1と2でしょう。
たとえばトマトにとっての快適な気候は20~30℃の温度帯。
日本では7、8、9月あたりです。
この短い旬の時期に、できるだけ長く収穫したいので、寒くて生育が進まない時期から育苗によって苗を育てておくわけです。
また。
霜が降りる気候はトマトにとって厳しすぎるので、霜がもう降りないと想定されるタイミングでもっとも大きな苗を用意しておくことが、最大収量を得るための近道になります。
そして。
育苗のスペースや、培土の量、苗の管理作業を考慮した結果、ポリポットでの育苗がコスト面、作業効率面などでベストだという結論なのでしょう。
そこには多くの実践者の知識や経験、研究結果が詰め込まれており、かんたんに否定できるものではありません。
ポット育苗は本当に必要なのか
じゃあポット育苗はすべての農家にとってベストなのか、といえばそんなことはありません。
おそらくトマト専業農家にとっては、ポット育苗はベストな選択でしょう。
でも野菜セットを作るような多品目栽培の農家ではどうでしょうか。
何十種類と育てていく野菜ひとつひとつに、専業農家がもっているノウハウを当てはめてしまっていいのか。
多品目栽培としてのベストな選択が、ほかにあるのではないか。
といったことは考えるべきです。
では具体的に、私がなにを考えてセルトレイ育苗に切り替えたのかを説明していきます。
まず。
ポットの土の量は多いので、長期間の育苗ができて、それなりに大きな苗を育てられます。
いわゆる市販されているような、本葉が7枚程度展開していて、第一花房がしっかりと見えている苗です。
ここで考えるべきは、そのような大きな苗じゃなければダメなのか、ということ。
たとえば10.5cmポットで育った苗を4月中旬に定植して、6月下旬から収穫が始まる。
これが標準の作型だとします。
じゃあ、ポットではなくセルトレイで小さな苗を育てておいて、同じく4月中旬に定植したらどうなるのか。
植えたときの苗は小さいので、収穫に至るまでの期間はふつうよりも長くなります。
ちょっと遅れて7月上旬から収穫が始まるわけです。
ふつうなら6月下旬から収穫が始まるところが、7月上旬にずれこむ。
この1週間か2週間の収穫期間の差が、経営にどれくらいの影響があるのかを考えます。
多品目栽培農家にとって、もっとも重要視されるべきは
安定して野菜セットを作り続けられること
です。
毎週10品目の野菜を常に揃えておくこと、この安定感がなによりも大切です。
トマトの専業農家にとっては最大収量を得ることが売り上げに大きく貢献しますが、野菜セット農家は別の視点を持っています。
それは、6月下旬に種類が揃っているならトマトはまだなくてもいい、という視点。
もちろん早く収穫が始まったほうがいいですが、育苗スペースや、培土の量、苗の管理作業を抑えられたほうが経営全体としてプラスになると判断できるなら、7月上旬からの収穫で問題ないということです。
ただたんに収量の最大化を目的としていません。
育苗でポットではなくセルトレイを使うというのは、培土の量がぜんぜん違います。
育苗する面積もかなり違います。
育苗期間も短くなります。
潅水量も減るので管理がラクになります。
トマト専業農家であれば、収穫期間1週間の違いは売り上げに大きく差が出るかもしれません。
でも農家によっては、育苗ハウスの面積が小さいからセルトレイのほうがいい、という場合もあるんです。
高価な培土を使っているからセルトレイのほうが収支はプラスになる、という場合もあります。
一般的に果菜類の育苗はポットが常識だから自分もそうする。
という思考ではなく、
自分にとってベストな選択は?
と常識を疑う姿勢が必要だと思いますよ。
大切なのは自分にとって必要なのか
トマト専業農家にとって、ポット栽培は収穫量を最大化するために必要なことです。
でも多品目栽培農家には本当に必要なのでしょうか。
収穫量の最大化よりも重要視しなければならないことはありませんか?
その人が置かれている状況によって、ベストな選択は違います。
一般的に書籍などに書かれている情報は、平均化されて万人受けするようにマイルドなアレンジがされています。
その数値が自分にとって当てはまるのか、そのまま採用していい数字なのか。
疑いを持ってみてください。
今回のチェック
●常識だと思いこんでいることにこそ新しい突破口がある
●収穫量を最大にすることだけが経営目的ではない
●自分にとっての最適値を探す旅に出よう



