農業の主流は、単一作物もしくは数品目を扱う農業でしょう。
多くの農家がそのような形態で、手広く効率的に農業をされています。
そんななかで、ちらほら耳に入ってくる多品目栽培という単語。
有機農業の世界でよく用いられる多品目栽培という手法は、じつはかなり特殊な栽培方法です。
それは、年間を通して何十種類という作物を育てる栽培方法で、簡単に言ってしまえば
家庭菜園をドデカクしたようなイメージ
で間違いありません。
その多品目栽培について。
一般的に言われるような栽培方法が通用しない場面がけっこう多くて、多品目ならではの、独自の栽培技術が必要になってきます。
ただしその技術は、それぞれの農家が経験を積み重ねてノウハウを蓄積しているものの、世の中にマニュアル化して出回っていません。
門外不出というほどではありませんが、せっかくのノウハウが個々の農家に留まっているのが現状です。
本屋に行ってみてください、プロ農家が持つ多品目栽培のノウハウなんてほとんど載ってませんから。
今回お伝えする「多品目栽培ノウハウ」というのは、あくまでも私個人の多品目栽培技術です。
それを前置きしておいて。
多くの農家から集積されたノウハウではありませんが、実際に多品目栽培をなりわいとしてきた農家の技術であることは間違いありませんし、たんなる栽培だけではない計画生産や効率化などの技術を含んでいます。
参考になる部分ならない部分あると思いますが少しでも気づきがあれば幸いです。
1.ゆるめの計画
多品目栽培は、いろんな作物をいろんなタイミングで、いろんな場所で栽培していきます。
まるでパズルのよう、という表現がぴったりです。
春にニンジンを育てて、それが終わったらそこにエダマメを植えよう。
とか、
3月~5月にレタス、6月~10月にサツマイモ、冬にホウレンソウ、と組み合わせていこう。
とか。
いろいろと考えながら、圃場内が隙間なくきっちりと栽培されつくしている状態を作り出す。
そういう計画を立てる。
いわゆるパーフェクトな年間栽培計画を立てる人がいます。
これは、熟練の農家であればもちろん可能ですし、計画だけなら時間をかけることで初心者にも作れるかもしれません。
でも。
その計画には落とし穴があります。
まだまだ経験の浅い初心者農家にとって、栽培での失敗はふつうに起こります。
もし仮に、栽培期間を5月~10月まで予定を組んで計画を立てていた作物が、播種したのはいいけどうまく育たなかったら・・・。
5月の時点でその作物の失敗がはっきりしてしまえば、その後4ヶ月間なにも育てないことになってしまいます。
だって次の作付が11月以降になってるんだから。
こういった失敗がいくつも重なった時にどうなるか。
隙間だらけの、歯抜け栽培になってしまう可能性が高いです。
せっかく効率的に圃場を回していく計画であるはずが、失敗を繰り返すことで結果的に非常に非効率な栽培に陥ってしまう。
ということです。
ではどうしたらいいか。
これは簡単です。
ざっくりとした計画だけを立てておいて、空いたところに順次作付けをしていく。
このゆるさが大事。
例えば。
A・B・Cといったように3ヶ所に圃場が分かれていたとして。
A圃場には、春作で小松菜、チンゲンサイ、キャベツを植える。
B圃場にはブロッコリーとジャガイモ、C圃場には水菜と菜の花。
といったように、ざっくりとした計画だけを立てておくんです。
そして、どの作物をどの畝に作付けするかは決めないでおく。
ただし、栽培面積だけは事前にあらかじめ把握しておく必要はありますが。
このゆるめの計画だと、歯抜けでその畝をしばらく使わない、なんてことがなくなります。
栽培に失敗すればすぐに片付けて、さっさと次に移ればいいからです。
こういうことは、熟練度が増してきて失敗が減ってくれば別に気にしなくていいんですが、最初の頃の未熟なヒヨっこ農家であれば参考になると思います。
2.コンパニオンプランツ、混植

(画像参照:趣味の家庭菜園)
作物にはそれぞれの相性があります。
相性のよい作物同士を近くに植えると育ちが良くなるもの。
虫や病気を寄せ付けにくくなる組み合わせ。
など。
近くで栽培することで互いの生長によい影響を与え、共栄・共存しあうとされている植物のことをコンパニオンプランツと呼びます。
その組み合わせは、一覧表になるほどたくさん存在します。
コンパニオンプランツはかなり有名になっているので、採用している農家もたくさんいますし、実際に効果のある組み合わせもあるのは確かです。
ただし。
あまり信じすぎるのもどうかな?と釘を刺しておきます。
言うほど効果ないでしょ~、とか。
それだったら農薬かけたほうが早いじゃん!とか。
わざわざ面倒な混植するほどじゃないよね、とか。
期待しすぎるとガッカリすることもある、ということは覚えておいてほしいと思います。
トマトとニラ、ネギ。
キャベツとレタス。
カブ・ダイコンとニンジン。
ほかにもハーブと組み合わせるパターンなど多種多様です。
とりあえず自分でやってみればいい。
そんなに手間じゃないと思うならやればいいです。
効果を検証するとなると比較実験が必要なので面倒ですが、やらないよりはやったほうがいいと思うならやるべきです。
全てを否定するのではなく、試しにやってみることをお勧めしておきます。
ちなみに。
似たような技術として輪作(りんさく)というものがあります。
これは、連作障害を避けるために同じ科目の作物を同じ場所に植えないようにする技術です。
多品目栽培ではいろんな作物を育てるので輪作体系が取りやすいですが、輪作をあまり気にしすぎると栽培計画にかなり制限が出てくることがあり大変です。
連作はしたほうがいい、という真反対な意見もあるくらいですし、個人的にはせいぜいナス科の連作を気にする程度で良いのではないかと思っています。
3.畝幅の統一
一般的に出回っている耕種一覧表と言われるものを見ていると、それぞれの作物には適切な畝幅というものがあります。
トマト150cm。
ナス 180cm。
キャベツ2条植えなら90cm。
といったようなことです。
これらは、単一作物でだだっ広く栽培する場合には有効な数字だと思いますし、おそらく最適値なのでしょう。。
が、多品目栽培でこまごまと畝ごとに違う作物を栽培する場合、畝ごとにそれぞれの最適な畝幅を設定してしまうと、次に植える品目との連携が取れなくなってしまいます。
今、畝幅150cmでトマトを植えて、次作でホウレンソウ畝幅120cm、とか。
その差30cmどうするんだ??
という話です。
だから、多品目栽培では全ての畝幅を統一することをお勧めします。
例えば畝幅150cmで全て統一するということ。
トマトもナスも150cmで合わせる。
キャベツが2条植えで90cmなら、150cmで3条植えにするとか。
畝幅を統一する代わりに、株間で調節できますからね。
いちおう説明しておくと。
畝幅と株間はつながっています。
大切なのは、一株あたりの栽培面積だからです。
畝幅×株間の面積が、作物が根を張れる勢力圏になります。
だから面積が同じなら、正方形だろうが長方形だろうがいいわけです。
(まあ極端な長方形はダメですが)
畝幅が統一されていると、栽培計画が非常に立てやすくなります 。
作付品目の組み合わせとか関係なしに、どこに何を植えても関係ないからです。
ただし、一部ネギやジャガイモなど土寄せをする作物については、少し考慮する必要があります。
土寄せするのに2条植えとかできませんから。
私の場合、ジャガイモはマルチ栽培の畝幅150cm2条植えで土寄せをなくしました。
ジャガイモのマルチ栽培については調べればいくらでも情報が出てきます。
ネギも、土寄せをしなくてもいい品種に変えました。
多品目栽培に合わせて栽培技術を変化させる、品種を変える。
そういうのもありですよ。
4.畝成型機の有効性
畝を立てる方法は主に3つあります。
1.管理機で通路の土を跳ね上げていく

(画像参照:徳島でへの字稲作)
2.培土器で溝を切っていく

(画像参照:honda hello!野菜)
3.畝成型機を使う

(画像参照:藤木農機)
どの方法がいいかは、状況によって異なります。
たとえば圃場全体を一気に耕して、一気に畝を立てていく場合。
どの方法で畝を立てていっても、効率の違いこそあれ問題は起きません。
水はけが悪いからかなり高畝にしたい。
であれば1の管理機を使った方法が合ってます。
葉野菜を育てるので通路はあまり広くなくてもいい。
であれば2の培土器を使った畝立てでいいでしょう。
効率的に仕事を進めていきたい、時間短縮したい。
であれば3の畝成型機が素晴らしい仕事をしてくれます。
ここで。
多品目栽培という特殊な栽培をとったとき、じつは1と2では大きな問題が発生してしまいます。
いろんな作物を栽培していくと、キャベツが栽培してある隣にレタス、その隣にニンジン、といったように隣り合う畝でぜんぜん違った作物が育っていることがよくあります。
それぞれの作物はもちろん栽培期間が違うので、キャベツは生育中だけどレタスは収穫中、人参はタネを播いたばかり、といった生育のずれもあります。
すると、当然ですが栽培が終わって片付けて、耕耘→畝立ての作業を進めていくタイミングも違ってくるわけで。
両隣が栽培中のところへ畝立て作業が入ることなんてしょっちゅうあります。
ここで。
1と2、つまり管理機での跳ね上げと培土器作業は、通路の土を栽培する畝の上に動かしていきますよね。
もし両隣に作物がある状況で、通路の土を動かしていくとどうなるか。
栽培中の畝にも土をかけていくことになります。
これはできることなら避けたい事態です。
ニンジンのタネを播いたばかりのところに土が飛んでくる。
生育中のキャベツに土がかかる。
いやですよね。
もちろん解決策はあります。
管理機の畝立て作業では、刃の向きを変えたり、土を片側にだけ飛ばしていく専用ロータリがあったり、デメリットが起きないよう工夫することができます。
それでも、一気に数本の畝を立てたいときにはそんな片側ロータリだと逆に不便だし、刃を付け替えたりするのも面倒です。
いまいちしっくりきません。
そこで登場するのが3の畝成型機。
畝成型機は、ビニールマルチを畝立てと同時に張ることができるアタッチメントもあるのでマルチャーと呼ばれることもあります。
この機械は、基本的に通路の土を畝の真ん中に寄せるようにして畝立てをしていくものです。
ですので隣の畝の状況に関わらず、まわりに迷惑をかけることなく畝を立てることが可能なんです。
これが多品目栽培では絶大な威力を発揮します。
さきほど書いたので分かると思いますが、両隣が栽培中という状況で一本だけ畝を立てる場面が数多くあるのが多品目栽培ですから、畝成型機の内盛り成型はものすごくピッタリマッチするんです。
畝成型機によって、多品目栽培は大きく前進する。
と言い切ってもいいほど、この機械は多品目栽培に向いています。
なかなか中古品が出回らない機械ですが、多品目栽培ではぜひ手に入れて欲しい機械の一つです。
効率が全く違ってきますよ。
もちろんトラクターにつけるアタッチメントを選んでも同じです。
5.優先順位をつける 複雑なオペレーションを簡略化
パズルのようにピースを組み合わせていく多品目栽培は、作業管理が複雑でなにから手をつけていいのか時々わからなくなるくらい、頭を使う栽培方法です。
次々に降りかかってくる様々な作業に、優先順位をつけてこなしていく。
そのスキルがなければ、いつまでたっても仕事が終わらないうえに、草に埋もれてあえなく栽培終了!もありえるのが多品目栽培の怖さでもあります。
この解決方法については別の記事で詳しく書きました。
ぜひそちらをご覧いただければと思います。
6.不利な中山間地で優位に戦う方法
一般的には、中山間地域は農業をするには不利だと言われています。
一つ一つの圃場面積が小さく法面(土手、斜面)が大きいため、どうしても管理作業が面倒で効率が悪くなるからです。
土地利用型で大面積を管理してこそ成立する稲作なんて、中山間地域ではまったく勝負になりません。
でも。
デメリットばかりが目立つ中山間地域にこそ、多品目栽培が向いていることを知っておいてください。
もちろん平地でまとまった農地があるなら、わざわざ中山間地域で農業をする必要はありません。
有利なところでやってください。
でも、非農家出身者が新規就農するときには、まとまって農地を借りられないことも多いですし、探しているうちに条件の悪い中山間地しか農地がなかったなんてこともありえる話です。
夫婦で営む程度の経営規模であれば、2ヘクタールもあればやっていけますし、そのくらいの栽培面積で多品目栽培に取り組むと、畝ごとに違った作物が育てられていることも多いです。
これってじつは効率が非常に悪いです。
単一作物で農地すべてを覆い尽くしていくなら、作業は非常に効率がいいんですが、効率を重視するがゆえに中山間地域の小面積な農地が分散することはデメリットにしかなりません。
でも多品目栽培はもともと効率が悪い。
農地が分散しているくらいのことなら、たいして効率低下を感じないんです。
単一作物で平地の効率を100とすると、中山間地でやると70に落ち込む。
でも多品目では平地の効率がもともと低く50だから、中山間地でやっても45になるだけ。
イメージとしてはそんな感じです。
また。
農地というのは、すべての場所が同じレベルではありません。
農地ごとに土質が違うのはもちろん、一枚の農地のなかでも水はけが悪い箇所があったり、日当たりが悪いところがあったり、隣の農地で稲作をやっていると水が染み出してくるところがあったり、さまざまです。
非農家出身者が新規就農した場合、農地を探しても条件の悪いところしか見つからないなんてふつうです。
そんな時に、多品目栽培であれば農地の条件によって栽培品目を変えることができます。
水はけの良い場所にはトマト。
水はけの悪い場所には里芋。
日当たりの悪い場所には茗荷。
といったように、作物の適正に合わせて場所を選ぶことができます。
そしてさらに。
虫害のリスクにも備えることができます。

(画像参照:タキイ種苗 [野菜]病害虫・生理障害)
例えば、どこかの農地でダイコンサルハムシが大発生したら・・・。
無農薬栽培では対処しようがなく、その農地ではしばらくアブラナ科の栽培を控えるようにしよう、といった対策をとることがあります。
(ダイコンサルハムシは多くのアブラナ科野菜を食い荒らす)
そんなとき。
農地がまとまって一つしかなければ、アブラナ科の野菜をまったく育てられないことになってしまいますし、被害を避けることができなくなります。
でも、もし農地がいくつかに分かれていれば、ダイコンサルハムシが発生していない農地でアブラナ科を栽培しておくことができるわけです。
リスク分散という意味においては、農地が分散していることはむしろメリットです。
農薬で対処できない有機農業では、リスク分散を非常に重視するので、中山間地域で小さな農地がいくつも分かれていることが、じつはメリットになるわけです。
もちろんデメリットとして、法面の草刈りがかなり大変であること。
機械の移動などが面倒であること。
そして、そもそも効率が悪いこと。
これらはもちろん承知しておくべきだと思います。
基本的に、中山間地域はデメリットのほうが多く、農業経営という点からみれば不利なことは間違いありません。
ただ、多品目栽培においてはデメリットもありつつメリットもある。
デメリットを打ち消すくらいのメリットを持つということです。
今回のチェック
●多品目栽培には独特の栽培ノウハウがある。
●栽培計画はゆるめに、コンパニオンプランツを活用するとよい。
●畝幅を統一しつつ、畝成型機を使うと効率があがる。
●栽培管理での優先順位のつけ方を知る。
●多品目栽培では経営的に条件の悪い中山間地でもやっていける。